もしもの時に安心:大切な手仕事の記録を守るデジタルデータ保存術
手仕事の道を長年歩んでこられた皆様にとって、一つ一つの作品、一枚一枚の図案、そして長い年月をかけて培われた技術の記録は、何よりも大切な財産ではないでしょうか。それらを丁寧に記録し、守り続けることは、未来へと伝統をつないでいく上で、非常に重要なことです。
しかし、もしもの時に大切な記録が失われてしまったらと考えると、不安を感じるかもしれません。例えば、工房の火災や水害、あるいは長年使っていたパソコンが突然動かなくなってしまったら、どうなるでしょうか。
「デジタルは難しそうで、なかなか手が出せない」と感じていらっしゃる方も多いかもしれません。ですが、実はデジタルツールを使えば、大切な手仕事の記録を、これまでよりもずっと安全に、そして簡単に守り続けることができるのです。
この記事では、皆様の貴重な手仕事の記録を守るための「デジタルデータ保存術」について、一つずつ丁寧に、分かりやすくご紹介いたします。専門用語は極力避け、まるで隣で手ほどきをしているかのように、基本的なことからご説明しますので、どうぞご安心ください。
大切な記録を守る「デジタル」とは?
まず、「デジタルで記録を保存する」とはどういうことかをご説明します。
私たちが普段、写真や図案を紙に描き、それを大切に保管しているのと同じように、デジタルでも「データ」として保存することができます。スマートフォンのカメラで撮った作品の写真や、パソコンで作成した図案、お客様からいただいた連絡先などを、電子的な情報として保存するのです。
このデジタルデータは、紙のようにかさばることもなく、劣化することもありません。そして、一度デジタル化してしまえば、それをさらに安全な場所に保管する「デジタルデータ保存術」が利用できるようになります。
「クラウドサービス」という名の安心な保管場所
デジタルでデータを保存する際に、特におすすめしたいのが「クラウドサービス」というものです。
「クラウド」と聞くと、少し難しそうに感じるかもしれません。しかし、これはインターネット上にある、言わば「大きな共有の保管庫」や「書類を入れる引き出し」のようなものだと考えてみてください。皆様の工房にも、大切な図案や書類をしまっておく鍵付きのキャビネットや引き出しがあるかと思います。クラウドサービスも、それと似た役割を果たすものです。
自分のパソコンやスマートフォンの電源が切れてしまっても、このインターネット上の保管庫にデータを預けておけば、必要な時にいつでも、どこからでもそのデータを取り出すことができるのです。
クラウドサービスがもたらす安心感
クラウドサービスを利用する主なメリットは、次の通りです。
- もしもの時に安心:
- 工房の火災や水害、あるいはご自身のパソコンやスマートフォンが故障してしまっても、クラウドに保存しておけばデータが失われる心配が格段に減ります。インターネット上の保管庫は、非常に頑丈で安全な場所にあります。
- どこからでも確認できる:
- インターネットにつながっていれば、ご自宅のパソコンからでも、旅先で持っているスマートフォンからでも、いつでも大切なデータを確認したり、取り出したりできます。
- 家族や弟子との共有も簡単:
- もし、工房の記録を家族や弟子と共有したい場合でも、クラウドに保存しておけば、それぞれが自分のパソコンやスマートフォンから簡単に同じデータを見ることができます。これまでのように、書類を渡しに行く手間がなくなります。
- 保管スペースいらず:
- 物理的な書類のように、棚や引き出しのスペースを占めることがありません。工房をすっきりと保ちながら、膨大な量のデータを管理できます。
クラウドサービスを始める第一歩:写真の保存から
では、実際にクラウドサービスを使って、大切な手仕事の記録を保存する方法を見ていきましょう。ここでは、多くの方がお使いになっているであろう「Googleドライブ」というサービスを例にご説明します。これは無料で始められ、スマートフォンをお使いの方なら、すでに利用できる状態になっていることも多い、非常に便利なサービスです。
1. Googleドライブを使ってみましょう
スマートフォンをお持ちの方は、画面の中に「Googleドライブ」という名前のアプリが見つかるかもしれません。もし見当たらなければ、スマートフォンのアプリを追加する場所(「App Store」や「Google Playストア」と呼ばれています)で「Googleドライブ」と検索して、手に入れてみてください。
パソコンをお使いの場合は、インターネットを見るソフト(「ブラウザ」と呼ばれます)を開いて、「Googleドライブ」と検索するか、drive.google.com
というアドレスを入力すると、Googleドライブの画面が開きます。
2. 大切な作品の写真を保存する手順
今回は、スマートフォンのカメラで撮った作品の写真をGoogleドライブに保存する手順を例に見ていきましょう。
- Googleドライブのアプリを開きます。
- 初めて開く場合は、Googleアカウント(Gmailのアドレスなど)でのログインを求められることがあります。普段お使いのGmailのアドレスとパスワードを入力して進んでください。
- 新しいフォルダを作ってみましょう。
- 画面のどこかに「+(プラス)」のマークや「新規」というボタンがあるはずです。これを押します。
- 表示される選択肢の中から「フォルダ」を選びます。
- 「新しいフォルダ」という名前をつける画面が出てきますので、例えば「作品写真_2024年」のように、分かりやすい名前を入力して、「作成」や「OK」を押してください。
- これで、「作品写真_2024年」という、写真を入れる新しい引き出しができました。
- 写真をフォルダに入れてみましょう。
- 先ほど作った「作品写真_2024年」というフォルダを、画面上で一度軽く押して開きます。
- フォルダの中に入ると、まだ何も入っていない状態です。
- 再び画面の「+(プラス)」のマークや「新規」ボタンを押します。
- 今度は「アップロード」という項目を探して選びます。
- スマートフォンの画面に、これまでに撮った写真の一覧が表示されます。この中から、クラウドに保存したい作品の写真を選んでください。複数選ぶこともできます。
- 写真を選んだら、「追加」や「完了」といったボタンを押します。
- しばらくすると、選んだ写真が「作品写真_2024年」のフォルダの中に表示されます。これで、大切な写真がクラウドに安全に保存されたことになります。
この作業を繰り返すことで、過去の作品写真や、これから作る新しい作品の記録も、整理しながら安全に保存していくことができます。
困った時の対処法と心がけてほしいこと
デジタルツールに慣れないうちは、戸惑うこともあるかもしれません。しかし、一つ一つの作業は、決して難しいものではありません。
- 「パスワード」は大切に:
- Googleドライブを使うためには、Googleアカウントのパスワードが必要です。このパスワードは、インターネット上の「鍵」のようなものですので、忘れないように、しかし安全な場所にメモして保管しておいてください。
- インターネットにつながっているか確認:
- クラウドサービスは、インターネットにつながっていないと利用できません。スマートフォンであれば、電波が届いているか、Wi-Fiにつながっているかを確認してください。
- まずは「簡単なもの」から:
- 最初から全てをデジタル化しようとせず、まずは「スマートフォンで撮った写真1枚を保存する」という簡単なことから試してみてください。小さな成功体験が、次の一歩につながります。
- 分からない時は、誰かに尋ねてみる:
- 身近にいる詳しい人に尋ねるのも良い方法です。地域の公民館などで、デジタルツールの使い方を教えてくれる講座が開催されていることもあります。
最後に:手仕事の未来を守るために
デジタルツールは、皆様がこれまで培ってこられた手仕事の技術や記録を守り、さらに発展させていくための、強力な味方となり得ます。最初は少し戸惑うかもしれませんが、一歩ずつ、ご自身のペースで試していくことが大切です。
大切な作品の記録をデジタルで守ることは、もしもの時の備えとなるだけでなく、ご自身の作品を振り返ったり、次の世代へと技術や記録を受け継いだりする上でも、きっと大きな力になることでしょう。
まずは、スマートフォンで撮ったお気に入りの作品写真一枚を、クラウドに保存するところから始めてみませんか。その小さな一歩が、皆様の素晴らしい手仕事の未来を、より確かなものにしていくはずです。